自然体験・生活体験 ― センス・オブ・ワンダーを求めて ―
子どもの学びは「体験型」であることが望ましいと考えています。「やってみて分かった」という経験が「分かったからやってみよう」という意欲を生むからです。それは知識の種を蒔く以前の、学びの土壌を耕すことであり、子どもの育ちを促す第一歩です。
自然環境保護運動の先駆者であるレイチェル・カーソンは、子どもたちが自然体験の中で『神秘さや不思議さに目を見はる感性(センス・オブ・ワンダー)』を育むことの重要性を述べています。そして『「知る」ことは「感じる」ことの半分も重要ではない』と語ります。例えば、大久保保育園では雨の日に葉っぱ拾いに出かけたことがあります。アウトドア用のレインウェアを着て。雨天という自然をじかに感じる状況が子どもたちの感性を発芽させ、瑞々しい好奇心を広げている様子が伺えました。
自然体験とともに生活体験も重要です。国立青少年教育振興機構の調査(平成24年度)によると『自然体験や生活体験が豊富な青少年ほど、自己肯定感が高い傾向にある』という結果が出ています。実際に自分でやってみるという体験が、学びを促すだけでなく、心理的な自律にも良い影響を与えていることを示しています。保育園生活で言えば、保育士が何でもやってあげるのではなく、いろんな場面で子どもが自分でするような工夫を心がけています。
ピース・テーブル
問題解決は最も高度なかかわりのひとつです。トラブルの解決は、その結果以上にその過程が重要な「学び」と「育ち」の機会になります。大久保保育園では子どもたちがケンカや言い争いになったときに座って話し合うための場所を設けています。それは「ピース・テーブル(和解のテーブル)」と呼ばれるものですが、分かりやすいように椅子を青く塗っています。トラブルになると園児たちはこのテーブルの前で向き合います。ここに座ったら相手の話に耳を傾けなければならないというルールです。もちろん自分の思いも伝えます。「話し合い」こそが問題解決の道だと気づき、その方法を身につけるための取り組みです。ケンカも和解もそのプロセスにおいて「育ちあい」です。
子どもは想像以上に自分たちで話し合いができます。慣れてくれば大人が介入する必要はほとんどありません。年齢が低い子同士だと年上の子があいだを取り持ってくれたり、二人で話すだけでなく事情を見ていた子が加わって意見を言ったりもします。このような様子を見ていると、問題解決方法を身につけるというよりも、子どもにもともと備わっている問題解決能力がピース・テーブルによって引き出されているのだということを感じます。子どもたちが自分たちで学んでいるのです。
世界では武力紛争が続いています。「話し合いのテーブルにつくこと」すら容易ではありません。椅子に座り、「相手の話を聞き、相手を理解する」という姿勢は、平和を実現するための基礎であるとともに、ますます複雑化・多様化する社会の未来を生きる子どもたちにとって最も大切な力のひとつだと考えています。